世界は広い

この狭い国のほかに行ったことのある国はないけれど、世界がものすごく広いってことを

身に沁みて感じることができるようになったのは、つい最近。ましてや子供の頃は、線路の

向こう側の知らない町や、親戚の住む隣の町が自分では行くことができない遠い世界。

大人になって、こんなに近かったのかと驚くほどに。

子供の頃のたった一度の大冒険。父と祖父の折り合いが悪くなって、しばらく別居することに

なった。大好きな祖母と離れるのがつらかったり、転校した学校になじめなかったりで、

元のおうちに帰りたかった。両親にはそんなこと決して言えるはずがないことは、小さい私にも

よくわかっていた。そんなことを考えながら学校の教室の二階の窓から外をぼーっと眺めて

いたある日。気がついた。(あの線路の向こうにおうちがある。おばあちゃんがいる)

次の日も窓から外を見て、私は決心した。(行ってみよう) ふたつ下の妹を連れて、放課後

まっすぐまっすぐ線路だけを頼りにおばあちゃんのうちにむかった。渡ったことのない踏み切り。

でも必ずたどり着くはずだからと、妹の手を握って、泣きそうになるのを我慢して歩いた。

よく遊んだ川が見えてきた。(もうすぐだ) なつかしい我が家が見えてきたときは、ほっとした

半面、叱られたらどうしよう、と不安になった。「おばあちゃん!!」と家に飛び込んだ時、

もう何年も会ってなかったかのようにワーワー泣いてしまった。「よう来たなあ」と言ったまま

祖母も言葉にならなかった。叱られるどころか、祖母は「ごめんな。ごめんな。辛い思いを

させたなあ」と謝るばかり。(おばあちゃんが悪いんじゃない)と言おうとしたけど、言えなかった。

子供に辛い思いをさせたり、怖い思いをさせてはいけないと、この後、父と祖父は仲直りし、

お互いの家を行き来するようになった。その一年後またいっしょに暮らすようになった。

あの大冒険と思えた道のりは、大きくなってたどってみても、簡単な道だし、車だとものの

10分ほどだけど、歩くには相当の距離だった。なにより初めて見る町は、とっても広かった。

そして、見知らぬ町は心もとないけど、ワクワクもした。忘れることのできない大冒険。

大人になっていろんな町で暮らしたけどどの町も私にとっては、冒険のようでワクワクした。世

界は広くて、自分を縛るものは何もないんだと思うとうれしくて仕方なかった。自分が何かにな

れるとか、夢とかあったわけでもなくその時すでに母親だったりしたんだけど、それでも子供の

頃のあの小さい小さい町からどうにか飛び立ったんだという思いでいっぱいだった。その頃の両

親の心配はいかばかりかと、今になって思うけど。

目をつぶって、それらの町の記憶を時々引っ張り出しては、ひとりで旅しているような気分に

浸れるという、これ、一種の特技かなと思うけど、そんなふうにしていると、その町を今ほんとに

歩いているような気になれる。それが楽しくて、暇なときそんなことをして遊ぶんだけど、

ダンナに「私そういうことができるんで。でな、どう考えても行ったことのない町が出てくるんや

けど、それがまたおもしろいんや」と言うと、「そんな現実逃避みたいなことはやめなさい。

危険です」と言われてしまった。外国の紀行番組を何気なく見ていると、しばらくすると家の窓か

らすーっとその町の風が吹いてきて、匂いまでしてきて、その町にいるような気分になる。

これはダンナに言うと、「うん、それは安上がりでいいことだ」

もしか今の自分が住む世界のなかでもがいている若者がいたら、もっともっと世界は広いから

自分で足かせを解いてごらん、と言ってあげたい。世界はほんとに広いからって。

それを知りたくないですか?って。もう一回人生やり直せるなら、今よりもっともっと広い世界

を早いうちに知っときたかった。可能性ってやつですか。もっともっと追求したかった。

まだ間に合う、まだこれからの若いひとたちに、くやしいけど、うらやましくて仕方ないけど

そう言ってあげたい。たかだか自分が住んだ町や夢のなかの幻の町しか知らない、自分の世

界もいっこうに広がらないこんな私が言うのもなんだけど、世界は広いやね。
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by morinotomosibi07 | 2008-09-25 21:42 | 自分のこと  

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