2009年 01月 09日 ( 1 )

 

子離れ

9ヶ月ぶりに東京から帰省していたわが家の長男ケイさんが、また東京へと戻っていった。

「あいつ後ろも振り向かんで嬉しそうに帰って行ったよ」

珍しくダンナが寂しそうに呟いた。私は生憎仕事で見送れなったけれど、

かえってその方がよかったかもしれない。またあの虚脱感に襲われるよりは。

「ケイ君帰りたくないな、って言ってたよ」

とエリさんが言うのを聞いて、ちょっと胸がザワザワした。


年末に空港で出迎えた時、ダンナが真っ先にケイさんを見つけた。

「えっどれどれ?」 「あれやろ。あの妙な帽子かぶったやつ」

「え~ウソ~あの長髪のあれ?」

後ろで束ねられるくらい伸びた髪と、少しこけた頬のケイさんは、また背が伸びたように

思うくらい、大きく見えた。そして、少しだけ都会の匂いがした。

家の中で、長い手足を思う存分伸ばして、「あ~なんかいいなあ」と

ゴロンと横になるケイさんを、夢をみているような気持ちで眺めた。


何日目かの夜遅く、たまたまケイさんと二人でリビングにいた時、

ケイさんが「なあ、おかん…」と話し始めた。

「なあ、おかん、俺の野球って何やったんやろうって、この頃思うんや。俺、野球から

何を学んだんかなあ」

「だって、アンタずっと頑張ってきたやん。それがあるから、今勉強とバイト頑張れるん

やないの?」

「そんなこと誰でもできることやん。当たり前のことやん。野球してたことと何の関係

がある?」

「そんなこと言っても…」

「俺、ほんとは一生懸命なんかしてなかったんや。もっともっとやれたはずなんや。

自分にも周りにもウソついてたんや。だから結局負けたんや。」

「そうなん?おかあさんには一生懸命やってるように見えたけど」

「違うんや。中途半端で終わったんや。俺がお別れ会のとき、何にも言えんかった

理由わかる?俺には何にも言う資格なかった。何を言っても全部ウソになる」

いつも饒舌なケイさんがあの時は、たった一言

「後悔だけはしないで下さい」 後輩や保護者が見守るなか、それだけ言った。

「え~それだけ?どうしたんか~」という声がどっかから飛んできた。

私には半分だけわかっていた。ちょっとふてくされたような態度と、寂しそうな目が

苦しい胸の内をさらけ出していたように見えた。

でも、あの時は私も聞きたくなかった。「負けた」という言葉を。

ケイさんのことを心配してくれたママ友たちが、「ケイちゃんどうしたの?」と

かわるがわる聞いてくれたとき、「う~ん、あの子のなかでまだ整理がついてないと

思うんや。」とだけしか言えなかった。

「おかん、俺楽しかったよ」って、最後に言ったケイさんの言葉が苦し紛れの言葉

だったとしても、あの時はあれで良かった。その言葉で私も何かに蓋をした。

いつか、ほんとの気持ちが聞けるときが来るだろうと思っていたけど、

こんなに早く聞けるとは、思っていなかった。

二人きりで長い間話し込んで、気がつけば、夜中の3時になっていた。

次の日、ケイさんは野球部の同窓会に出かけて行き、夜遅く帰って来た。

メンバー11人中9人が集まっての同窓会は、みんな当時のまま、友情も変わらぬまま

「俺たち11人はずっとこのままやろうな。」とケイさんはうれしそうだった。

「その仲間ができたっていうのは、野球のおかげやね」と言うと、

「うん、それだけは間違いない」と笑った。

その後、「おかん、俺ちょっと散歩してくる」と言って、夜中一人で出て行った。

その散歩が思いのほか長いので、ダンナが心配して「あいつなんかあったのか?」

と言うので、昨晩ケイさんが言ってたことを話した。

「きっとあそこやわ」  ケイさんが前に言っていた、考え事をする場所。

苦しい事やイライラすることがあった時、気持ちを静める場所。何回となく行ったあの場所。

私にはどことは教えてくれないけど、きっとあの場所にいるのだろう、そう思った。

「人が心配してるのもわからんのかな、あいつは」と、

ダンナが家の中をウロウロし始めた時、ケイさんが帰ってきた。

その夜は、今度はダンナと二人で明け方まで話しこんでいた。

ダンナがケイさんに言ったこと。今までの事を振り返るときっていうのは、

次のことに向かう時。今のケイさんが振り返ってみて、自分のしてきたことが

中途半端だった、と思うなら、次は絶対同じことを繰り返さない事。

それだけで充分。勝ったとか負けたとか、まだ早すぎる。もっと後になって

ほんとに「負けた」というふうにあの時のことを思える日が来る。その時がほんとの

勝負の時。その時は、絶対勝つんだ。だから、今は「負けた」なんか言うな。


少し気持ちの整理がついたのか、それとも少し大人になったのか、ケイさんは

素直にダンナの言葉を受け入れ、そして、次に向かうための決心をしたようだ。

以前あったトゲのような近寄りがたい部分や、妙な理屈で自分を正当化すところも

すっかりなくなり、ダンナいわく

「小さい頃を除いて、初めてあいつのこと、かわいいなあって思えた」

私は、寂しいけれど、やっと子離れできたような気がしている。正確にはケイさん離れか。

他にもまだ子離れしなくちゃいけない子供がたくさん控えているから。
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by morinotomosibi07 | 2009-01-09 10:39 | 長男ケイさんのこと